震災復興財源に米国債の売却金も

〜いまこそ有事の蓄えを使うべし〜

群馬大学教授 山田博文

東日本大震災に衝撃を受け、どうしたらこの未曾有の災難から復興できるのか、頭を悩ましているのは、われわれだけではない。海の向こうにいる人々も、援助の手や知恵をめぐらしてくれている。復興資金は、10年間で、ほぼ23兆円と予測されている。この資金をどう調達するのか、海外からは、以下のようなメッセージが届いている。

大震災からの復興財源には、今こそ、有事に備えて蓄えてきた資金を使うべきである(To recover Japan must dip into its rainy day fund )、とコメントするのは、アメリカの経済学者のライン・ハート夫妻(Carmen Reihart and Vincent Reinhart)である。

「復興のために、日本は、有事の蓄え(rainy day fund)を使うべき」との記事が掲載されたのは、世界でも著名なイギリス経済紙『フィナンシアル・タイムズ Financial Times』(2011年3月25日)であった。

以下、この新聞記事を抄訳し、紹介する。

「最近の日本の廃墟の現場には、呆然とさせられる。再建のための費用は、まさに巨額であり、数千億ドル(数10兆円)に達するであろう。このような金銭上の重荷を堅実な経済に負担させることは、困難となろう。日本は、もはや堅実な経済ではない。・・・

日本の財政状況は、まさに惨憺たる状況にある。政府債務は、GDPの226%であり、先進工業国のなかで、飛び抜けて高い。・・・

それでは、どうすればいいのか?

幸運なことに、日本は、自由に使える流動性資産という非常時の金庫をもっている。すなわち、日本政府は、何年間も苦心して外貨準備(その殆どは米国債)を蓄えてきた。現在では、この蓄えは、1兆ドル(約100兆円)を上回り、GDPの20%にわずかに達しないほどである。再建のために、この大金の一部を現金化することは、理にかなっている。・・・

日本政府は、保有する外貨準備を売却することをためらっている。もし、外貨準備を蓄えることが、われわれの推測では、強い円への懸念であったならば、同じ理由は、外貨準備を使うことの懸念となりそうである。しかし、外貨準備の由来がどのようなものであれ、これらの外貨準備は存在しており、日本は、それらの一部を売却するべきである。政府の評価では、再建のための費用は、3000億ドル(約30兆円)よりも多いが、この金額は、最終的な費用よりも少ないことが立証されるであろう。・・・

日本の弱体化した財政状況や経済不況のリスクを考えれば、流動性のある外貨準備の資産を売却することは、復興を促進する分別あるやり方である。再建は、潜在的な円高を相殺できるほどに消費を刺激するであろう。債務に依存しないことは、すでにその貯蓄のほとんどを政府に用立てている日本の家計と、海外の投資家の両方を安心させるであろう。日本は賢くも有事の時のために、外貨準備を蓄えてきた。その有事は、ここにある。日本は、すぐに対応すべきである。」。

イギリスの新聞に載ったアメリカからの日本復興応援団の主張は、現にある100兆円の有事の資産(外貨準備)に手を付け、その10%を現金化しても、10兆円もの資金が調達できるので、それを復興財源に回すべきである。そうすれば、新たに債務を増大させる国債の発行も、まして臨時の増税の必要もなくなり、国民生活も、日本経済も助かるはずだ、という主張である。

こうした主張は、国内でも一部展開されている。たとえば、本稿も参考にした日本版『週刊 エコノミスト』(2011年6月14日号、毎日新聞社)でも、「米国債を売れ!外貨準備を復興財源に」、との特集が組まれている。

(やまだ ひろふみ)